伝統工芸刺繍作家「森康次先生」

伝統工芸刺繍×時代の風を超えたデザイン

スタッフブログ
2024.11.24

今日は、まさに芸術と技術の粋を見せていただいた素晴らしい日でした。

京友禅伝統工芸士の直営店「きものサロン都千本」さんに、伝統工芸刺繍作家「森康次先生」がご来店されていました。
伝統工芸刺繍の世界に深く精通した京都の作家であり、これまでに培った熟練の技を惜しみなく披露してくださり、素敵な時間を過ごせました。

 

まず目の前で見せていただいたのは、繭から作られた非常に細い糸を使った、伝統的な日本刺繍の実演です。
糸はとても細く、光を受けるたびに繊細な輝きを放ち、その美しさに目を奪われます。

森先生は、糸を一本一本手で柔らかくよじりながら、刺繍の糸として使用するために、強度を増していきます。
その手つきは驚くほどスムーズで、まるで長年の経験が身体に染み込んでいるかのように、見ているこちら側ではその手の動きに目を見張るばかりでした。

先生が話しながらも、手元は一切乱れることなく、精緻な刺繍が次々と施されていく様子は、まさに匠の技と言えます。
細かい作業をしながらも、言葉を交わし、時には冗談を言って笑いを誘うその姿には、長い年月をかけて培われた職人としての誇りと余裕が感じられました。
手元の動きが、まるで無意識のうちに完璧に糸をさばいていく様子に、圧倒されるとともに、森先生が持つその豊かな経験と感覚に深く敬意を抱かずにはいられませんでした。

刺繍の技術自体が素晴らしいのはもちろんですが、先生が語ってくださった作品が出来るまでの過程にも感銘を受けました。

刺繍におけるデザインは、単に美しい模様を施すだけではないのです。
まず、森先生は作品を作る際、モノクロの写生からデザインを起こすそうです。
この段階で、静的なバランス—すなわち、着物として着用した時に、どれだけ美しくバランスが取れているか—をしっかりと考え抜きます。

しかしそれだけではなく、着物という衣類を身に着けたときに、「動的なデザイン」がどのように見えるのか、つまり動きの中でどのように印象が変化するのかをも考慮しているとのことでした。

このように、動きの中で生きるデザインを追求することで、ただ静的に美しいだけでなく、身に着けた時に命が吹き込まれるような表現が可能になるのです。

また、糸を染めることもご自身でなさっています。
伝統的な色彩を大切にしつつも、その糸の色そのものが持つ美しさや光の具合を重視しており、季節感を取り入れた色彩の選び方に工夫を凝らしているそうです。
その微妙な色合いや陰影、光の反射具合が、刺繍に立体感と動きを与えるのです。

今回は、紅葉の刺繍を拝見しましたが、糸自体は柔らかな色合いでしたが、秋の深まりを糸の一本一本から溢れ出ているように感じられました。
見ているだけで、触れることのできない「季節の空気感」や「光と影」を肌で感じることができました。

また、森先生が刺繍を施す時、単に技術的な完成度を追求するだけでなく、そのデザインが着物として、またその背後にある文化や時代、バランスを反映させることを大切にされている点にも感銘を受けました。
作品集を拝見して、ただ美しいと感じるだけでなく、そのデザインがどこか普遍的なものに昇華しているように思えました。
色や形、技法が、時代を超えて心に響くものを作り上げているのです。
それはまさに「伝統」と「現代」が見事に融合した芸術であり、普遍的な美の追求そのものでした。

作品集に掲載された一枚一枚の刺繍も素晴らしく、その自由な表現に圧倒されました。
繊細でありながら、力強さも感じさせるそのデザインは、まさに森先生の独自の感性と高い技術力が結実した結果です。
伝統的なデザインの枠にとらわれることなく、まるで新しい世界観を切り開くようなその刺繍は、誰が手掛けたものか分からないくらい時代や国籍を超えた普遍的な美を持っていました。

 

最後に、森先生が語られた「前を向いて取り組みなさい」という言葉が印象に残りました。
これからもその高い技術と深い感性を基に、伝統にとらわれない新しい刺繍の世界を探求し続ける姿勢に、強い感動を覚えました。
先生の作品は、きっと今後さらに多くの人々に影響を与え、時代を超えて愛され続けることでしょう。

今日の体験を通じて、私は単に美しい着物や刺繍を見ただけでなく、その裏にある深い考え方や技術、そして森先生自身の心のこもった想いを感じることができました。
刺繍というものが、ただの装飾や模様にとどまらず、心に響く芸術であることを改めて実感しました。

 2024.11.24

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